まだ途中なれどおススメ.

Social Science Concepts: A User's Guide

Social Science Concepts: A User's Guide

 まだ3章までしか読んでませんが,これは絶対のおススメ.政治学を専門にする人間の必読書になる予感大.量的分析をやる人も質的分析をやる人も,思想や理論の人も読んでおいて損はないのでは.概念規定それ自体がある程度仮説を含んでいるという主張は言われてみればなるほど,だし,さらに概念規定によって分析対象のselectionが生じるという点を自覚的に取り扱っている点もなかなか重要ではないかと.
 本書は社会科学における概念形成の話をファジィ集合論と絡めて論じています.副題に"A User's Guide"とあるとおり,非常に実践的に概念形成の重要性とノウハウを論じています.過去の政治学研究からいろいろな概念(e.g. democracy, 福祉国家ジェンダー,social revolutionなどなど)を実例として持ち出し.概念分析を行っています.先行研究における概念規定のメタ・アナリシス(「メタ・アナリシス」という概念をこういう風に使っていいのか,イマイチ自信がないのですが^^;;)の実践紹介的な要素も含んでいます.こういう概念規定のメタ・アナリシスはこれまで各研究者がそれこそ理屈でなくやってきたことですが,この本はそれに理屈を通しちゃってます.
 本のwebsitehttp://pup.princeton.edu/titles/8089.html
 著者が用意したこのテキストを使った講義のためのwebsitehttp://www.u.arizona.edu/~ggoertz/social_science_concepts.htmlで,こちらには演習問題もあるようです.
 著者のGary Goertzは国際政治を専門としているようですが,APSAのOrganized Sectionの1つであるQualitative Methods Sectionを牽引する研究者の1人です.質的分析というと日本の政治学の文脈からだと数理や計量と無縁という印象かもしれませんが,少なくともこの人やCharles Raginなどは全然そういう感じはしません.なので,数学嫌いの人はちょっと面食らうかもしれません.
 でもこの本自体は数学に強くない研究者でも(私もそうですが),楽しく読み進められると思われます.数学嫌いな人でもこれを読むことで,論理学としてのファジィ集合論に関心を持たざるを得ないのではないでしょうか.
 というわけでやっぱり社会科学にも数学はいるんだなあという感じ.ああもっと勉強しておけばよかった.
 それにしても,日本にはこのような本を書きうる政治学者は何人いるのだろうと思ってしまいました.あと,質的な分析の方法論について話し合うアリーナが日本の政治学ってやはりないなあ,とも.でも最終的な感想は「いやあ,政治学(polisci)って,やっぱおもしれえやぁ」なんですけどね.
 ま,いずれにしても政治学者が皆これを読むというところからはじめるしかないのかな.本書の知識が共通前提になったら,いろいろなところで話はかなり早くなると思うんですけど.