政治学は役に立たないか?:"Did he fall into the dark side?"もしくは「やっぱ,知は力なのよ」

 上記の資料を作るためにはおそらくマーケティング社会心理学,投票行動研究などに通暁していることが必要だろう.その意味では政治学における投票行動研究は結構使えるということだろう.ただし,ここでよく問われるのは「誰にとって有用なのか?」ということでもあろう.つまり権力者に奉仕するために蓄積されている知識なのではないか?という問いかけである.
 個人的には権力を行使する者と行使されるものを存在として2分割して考えることは,アタマが悪くなるだけなのでお勧めしない(

権力の予期理論―了解を媒介にした作動形式

権力の予期理論―了解を媒介にした作動形式

でも読んでくださいってなおハナシ).
 それはともかく,このような知識は民主党だって広告代理店を広報戦略のブレーンとして使っているだろうから利用可能だし,利用しているはずなのである.そしてこのような知識は,政治学社会心理学マーケティングの教科書や教室で広く公開されているのだから別に密教でもなんでもない*1.つまり普通の市民にとってこれまた利用可能な情報なのである.だから特定の誰かのために奉仕する知識ではない.それを有用なものだと思って利用するか,しないかだけのことだし,どの立場において利用されるのかもご自由である.投票行動研究で学位をとり,その知識を特定の政党のプロパガンダやさらにいうとデマゴーグのために用いれば,その人は,「彼はダーク・サイドに堕ちた」と言われるかもしれない*2.しかし,政治学科を卒業して大学院なんぞにも行かず,いわゆるフツーの生活をしている人だって,選挙の際における政党や政治家のプロパガンダについて知っておくことは,投票選択の際に結構有益だと思うのだが.ここでもやはり「知は力なり」なのである.
 よく「そんなこと勉強して何の役に立つの?」というようなことが言われるが,どう役に立てるかを決めるのはその知識を手にした人間の知性と品格の問題である.すでに有用であることが判っている知識を習得しても,実はそのことによるうまみというのは大したことがない.そういう知識の習得にはあっというまに人が集まるし,人が集まることによって自分以外にもその知識を持っている人がたくさんいるということになり,その知識を持つ人間は他の人間で代替可能であるということになってしまう*3.「知価社会」とはそういうもんである.
 佐藤優
国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて

国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて

においてソ連共産党幹部とつきあうに際して思いがけず有用だった知識として,キリスト教の組織神学を挙げている.彼は同志社の大学院で神学を勉強していたのだ.普通神学の実用性を語る人はいない.でも彼はその知識をきっかけに共産党幹部と親交を深めたことを書いている.
 大塚英志は「応用民俗学」の看板を掲げている.普通,民俗学実学だなんてみんな思わないだろう.でも彼はそれを実践している.
 人間が頭から脂汗を流してコンコンと考えて積み上げてきた知識に無駄なものなんてないと私は思う.もちろん人には個性というものがあり,得手不得手というものがあるので,ある種の情報が利用可能な人とそうでない人に分かれることはありうる.数学がわからないと消化できない知識は歴然とあって,これには私も頭を抱えることしばし,である.しかし,自分にわからないから無意味な知識だなどと思わないほうがいい.私が理解できなくたって物理の公式は私の生活を支えているのだ.

 しかし夜中の2時過ぎに目が覚めてしまったからとはいえ,原稿料にもならないこんなものを書いている私はいったいなんなんでしょうね?
 でもおかげでやっと少し眠くなった.また寝ます.

*1:たとえば政治学なら

政治過程論 (有斐閣アルマ)

政治過程論 (有斐閣アルマ)

ポリティカル・サイエンス事始め (有斐閣ブックス)

ポリティカル・サイエンス事始め (有斐閣ブックス)

現代の政党と選挙 (有斐閣アルマ)

現代の政党と選挙 (有斐閣アルマ)

あたりをご覧ください

*2:ちなみに実際にこういうコメントを聞いたことがあります

*3:人間以外の存在によって代替されてしまうことさえある.